日本で部品を作るときに言われる「品質」について、海外の加工会社のなかにはその本質を理解できていないメーカーがあったりします。
実際、私が海外に部品加工の依頼をしているなかで、時折、頭を悩ませられるようなことが起こる(どのようなことかは具体例を後述する)。
海外メーカーを使うということは、そういうトラブルもある程度は織り込み済みなんですが(本来は”織り込み済み”ではいけないのだが・・・)、やっぱりトラブルが起こると萎えます。
そんなこともつゆ知らず、私のところにも海外の加工会社から営業メールをたくさん送られてくるが、ほぼ100%と言っても過言ではないくらい「高品質、低価格、スピード対応」というのをPRしてきます。
それに加えて、製品サンプルの写真や会社案内パンフレットなども一緒に添付されていたりもします。
しかし、彼らが考えている「高品質」というものは、一体、何をもって「高品質」なのかという問いに回帰すると、結果的に首をかしげたくなることもあるのです。
今回は、そういった品質の問題について具体例を紹介しよう。
”見た目” よければ ”品質良し” と勘違いしている会社に注意!
駆け出しの零細海外メーカーの多くは、「品質の良さ」というものを寸法精度や見た目の良さとしか考えていない傾向が強い。
それ故、海外からの営業メールに添付されている会社案内やホームページに掲載されている部品の写真を見ると、とてもキレイに仕上がっている。
あるいは、国際展示会などで出展している海外の会社もあるが、そこに置かれているサンプルも手に持って見ただけでは果たしてその製品は良品であるかどうかまでは判断できない。
製品サンプルを見るのは、あくまでもどのような加工ができるのかということを知るための情報でしかありません。
つまり、その会社が本当に使えるのかどうかは、試しに注文を出すか、サンプルを作ってもらい、使ってみた感じを確認するしかないのです。
ここで注意しておくべきことは、作ってもらうサンプルの選択です。
部品の品質というのは、寸法精度や見た目以外にも、ちゃんと使えることが大前提としてあります。
ここで言う、「ちゃんと使えること」というのは、その製品に求められる役割が十分にあるいは、十二分に果たされるものであることを指します。
なので、海外メーカーを試してみるときには、必ず、想定しうるトラブルの”タネ”が含まれる製品にしたほうがいい。
単純に削って終わりという製品は、綺麗に寸法も入れて製作してくる確率は高いです。
これでは、試作する本当の意味をなさないのです。
今、中国や台湾には高度な機械がたくさん導入されています。
削る技術は相当高いのです。
しかし、実際に直面するであろう問題は削る技術以外のところで起こるんです。
代表的な例を紹介しましょう。
熱処理と異材の問題
以前にも、熱処理技術の不安要素が払しょくできないことには、日本を超えた「品質」を確保することは難しいという内容の記事を書きました。

ここに付け加えて言うなれば、熱処理の技術が悪いということよりも、熱処理の奥深さを追求できている業者が中国や台湾では少ないということが言える。
例えば、浸炭焼入れをするような部品にネジが切ってあったとします。
普通、私たち日本の企業なら、防炭処理というものをすることを確認しますが、彼らのほとんどは「防炭処理ってなんですか?」と聞いてくるのです。
そもそも、浸炭焼入れと普通のズブ焼きの違いさえ理解していないこともある。
なので、浸炭焼入れと指示していても、最終的に硬度さえはいればOKですよねみたいな感じで製品を作ってくるわけです。
浸炭焼入れについては、私のもう1つのブログで簡単に説明しているのでどうぞ。
⇒「浸炭焼入れ」これって普通の焼入れと何が違うの?簡単に説明するよ!
浸炭焼入れは「表面は固く、中は柔らかく(靭性高く)」という品質を達成するためにとる熱処理手段の1つです。
なのに、違う熱処理の方法で硬くしてしまうと、確かに検査上では硬度は合格かもしれませんが、製品の品質としては不合格になるはずなんです。
でも、彼らはそんなことまで考えていないのでしょうね。
つい先日も、確かに硬度は指定された硬度に処理されているが、実際に使うとすぐに割れてしまったというクレームを受けたばかりです。
原因は熱処理だろうということが推測されます。
あと、代表的なのは、高周波による硬度指定が日本と中国や台湾では異なるという点には要注意です。
日本だと、S45Cの材質を使って高周波焼入れをする場合、硬度指定はHRC50-55とか普通です。
でも、中国なんかだと「HRC40-45が限界です」と言うんです。
これって、もしかすると素材の問題があるのでは?と疑うしかないですよね。
実際、なぜか海外の材料は色がくすんでいたりすることがあるんです。
たぶん、不純物が多いのかもしれません。
なので、高周波焼入れがあるものは避けた方が良い可能性は高いですよ。
異材の問題
こればかりは、我々も、海外の加工メーカーも手の打ちようがないのですが、異材ではないのか?という疑いを持ちたくなるような問題が発生することはあります。
たとえ、使用した素材のミルシート(成分検査表)を送ってもらっても、そのミルシートが信用できるものかどうかまでは判断しきれない。
日本のメーカーですら、改ざん問題があったくらいです。
事実、過去には100%異材であるということが判明した事件もありました。
その時には、数十万円以上の弁済を強いられた苦い記憶というか記録が残っています。
提出されたミルシートに記載されている鋼材成分は、第三者機関による成分検査でまるっきりの嘘であるということが証明され、それをメーカーに強く訴えたところ、お金の弁済はしてくれました。
でも、その材料はあくまでも中国現地の鋼材屋から購入しているものであって、確実に異材でないと証明できるものを購入するのは難しく、再発防止は約束できないと言われたのです。
お金よりも失った信用のほうが大きな損害になったと言える一件でした。
表面処理にもご注意ください
金属部品加工をしていると、様々な表面処理に遭遇する。
黒染め(パーカー)、アルマイト、メッキ、塗装、コーティング。
いずれも、信用できないうちは海外で行うことはおススメしません。
布で拭くと色が剥げる黒染め。
硬質クロムメッキをしているはずなのに、簡単にヤスリがかかる。
カニゼンメッキをしているはずなのに、錆びている。
マンセル指定しているのに、違う色の塗装がされている。
枚挙に暇がないですね。。。。
噂によると、中国人や台湾人と日本人では色の見え方が違うとか、違わないとか。
どうなんだ?
マンセル指定しているのに「だいたい同じ色だから大丈夫!!」とか言って、平気で勝手に似た色の塗装をしてくるんですよ。
結局、届いた製品は日本で塗装を剥離して、再塗装するという無駄な時間と労力とお金をかけないといけなくなるんです。
できることなら、表面処理は日本でやりましょう!
まとめ
海外メーカーの言う「品質」というのは、狭義でしかものを言っていないと思っておく方が保険的です。
見た目の形や寸法、精度はある程度守られてくるでしょう。
でも、そこに面粗度とか焼入れとかが入ってくると話は別。
昔、日本の町工場では「使えたらええんや」という言葉をよく聞いた。
見た目よりも、ちゃんと使えることが大事なんだぜ!という意味であり、本質だけで言えば高品質だったのかもしれません。
それに引き換え、最近は見た目重視になっている部分もあり、ちょっとした擦り傷があるとNGとかどうなんでしょうかね?
いかに美しく高精度なものが作れるかを競うのは良いのですが、土台となる品質の認識がある日本のものづくりとは違い、中国のように加工技術だけがリープフロッグしてしまった国では、大事な基盤がユルユルになっていることが懸念されるわけです。
そのような部分が見えないまま、海外メーカーを利用していくと痛い目を見るのは自分であるということを、私たち日本人は覚えなければいけません。
海外メーカーをうまく付き合っていくためには、細かいことまで教育するつもりで指示していくことが大事です。
そうして、出せる仕事の選別はしていかないといけません。
巷でささやかれるような、海外に仕事が全部流れていくんじゃないか?という安直な思考ではいけません。
社会的に紳士であるかどうか?というレベルの違いが、まだ海外と日本の加工産業にはあるということを言いたい。
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