台湾には世界トップを走る自転車製造メーカーがあるのをご存知でしょうか。
本社を台中に置く「ジャイアント・マニュファクチャリング」という会社です。
今でこそ自転車の世界では有名かつ圧倒的な存在ですが、1972年に設立以降、何故小さな会社がトップ企業にまで登りつめることができたのかは非常に興味深いところがありますよね。
くしくも、創業者の劉金標(キング・リュー)は2016年に引退しましたが、これから会社を盛り上げていきたいと思うベンチャー企業や中小零細企業にとって、彼がこれまで行ってきた経営方針、経営戦略には学ぶところが多いのではないかと思います。
会社経営者ならば、人生をかけて会社を成長させたいと願いますし、自分が何をしたいか自問自答する日々を送っているのではないでしょうか。
ここに、自社の活路を見出せればと願います。
何故、ジャイアントは巨大企業にまで成長したのか?そのきっかけ
創業者の劉金標はうなぎの養殖業を営んでいたのですが、1971年に自然災害によって壊滅的な被害を受けたことが自転車業界への転進のきっかけとなりました。
元々、起業精神が強い劉金標はうなぎの養殖の前にも色々と小さな工場を始めては失敗を繰り返したようで、30代半ばを過ぎてから出会った自転車製造に救われた形です。
彼の凄いところは、「弱みから強みを発想する能力」だろう。
これは台湾で成功したと言える企業の創業者たちに共通して言えることなのかもしれないが、ご存知の通り台湾は小国です。
人工も2,300万人程度しかいないし、経済規模が小さいため自国のみのマーケティングでは大企業にまでのし上がることはできません。
つまり、台湾の外に目を向けた経営戦略を練ることを第一に会社経営をしてゆかなければならない。
何を世界の自転車メーカーは望んでいるのか。
そのためには、何をしなければならないのか。
こういったことを考える力と時間が大事なのです。
日々、目の前の仕事に朝から晩まで追われて過ごす毎日の中に、自分のUSP(Unique Selling Proposition)を見つける作業を儲ける時間を作ることが大事なんだと思えますね。
USP(Unique Selling Proposition)とは、日本では「独自の売り」あるいは「独自の売りの提案」として知られるマーケティング用語です。 「独自の売りの提案」を簡潔にまとめたフレーズであり、マーケティングコンセプトを端的にまとめたものと言えます。
世界中の自転車メーカーのOEMとして必要なものは?
最近、話題になる台湾企業を見ていると気付くことがあると思います。
それは、OEMの形態をとる企業が多いこと。
ジャイアントは今では自社ブランドもありますが、元々がOEMを主軸に急成長した会社です。
(今でもOEM企業として積極的に携わっています)
OEM(オーイーエム、英: original equipment manufacturer)とは他社ブランドの製品を製造すること、またはその企業である。 日本語では「相手先(委託者)ブランド名製造」、「納入先(委託者)商標による受託製造」などと訳される。
ジャイアント社が製造する自転車はスポーツタイプであり、マウンテンバイク、ロードバイク、クロスバイクなどですが、自転車部品は細かいパーツを並べると1,000点を超えることがある。
しかし、創業当時の台湾では各パーツごとに日本のJIS規格のように統一された規格というものが存在しませんでした。
そこに目を付けた劉金標は台湾で初めて「統一規格」をつくることにしたのです。
そういった取り組みは海外の自転車メーカーにとって、部品調達における品質の安定性にものさしができたようなものであり、非常に好評を呼び、ジャイアント社を自転車部品のOEM企業として飛躍させました。
この取り組みは「顧客が望むものは何か?」を先回りして用意した結果、競合他社の中で頭ひとつ出るきっかけとなったわけです。
やがて当たり前となるようなことであっても、パイオニアとして実績を残せば他社の追随すら許さない武器になることもあると言えますね。
ジャイアントが世界中で選ばれる理由
OEM企業として一躍有名になったジャイアント社ですが、海外メーカーに選んでもらうためには部品の品質、価格や納期などすべてが優れていなければならないわけではありません。
バランスが大事なのです。
品質の割には価格が安い
価格の割には品質がよい
こういった認識を持ってもらうことですね。
あるいは、作るものへ付加価値的な要素を持たせることで、たとえ同じ製造機械で同じ工程で作られたものでも、高価格で販売することも可能となる。
相手が欲しがるものを見せればよいのです。
その付加価値的な要素の開発へ注力する勇気と時間があるかどうかも、企業を大きく成長させるカギとなります。
ジャイアント社の自転車は海外他社の同タイプ製品と比べると、かなり低価格になっており、それでもって品質は抜群である。
これだけでも、世界中に認められる要素としては十分だが、ジャイアント社の強みは自国台湾の自転車市場にしがみつかなかったことにある。
世界の流暢をいち早く取り入れ、多くの顧客が望むものを提供することに努力を惜しまなかった結果が今の姿を作り上げたわけです。
自転車の市場にはマニアから一般大衆まで幅広いユーザーが存在します。
ジャイアント社が製造するのはスポーツタイプの自転車がメインですが、「プロ仕様の自転車をお手頃価格で!」「高性能のマシンでもっと自転車ライフを快適に!」というようなコンセプトで新たな顧客層も確立しています。
自社製品を持たないような中小零細企業にとっては、自社が提供できるサービスを今までと違う人に提供できないかを考えてみると面白い発見があるかもしれません。
目指すのは Only oneである。
それが劉金標の言葉です。
劉金標が掲げるスローガン「春の鴨になりなさい」が全てを集約している
これは劉金標が掲げる言葉であり、ジャイアントの経営方針の1つでもある。
春の鴨になるとはどういうことか。
その意味は「鴨は寒い冬の終わりに、水面下の水温の変化を感じ取り、やがて来る春の訪れを察知する」
そう先見の明を磨けということです。
今はまだ見えないものに将来の映像を描き出す能力というのは、一筋縄では会得することができません。
絶え間なる情報収集と自分のインスピレーションに頼るしかないのです。
昨今では「ビッグデータ」と呼ばれる単語を聞いたことがある人も多いでしょうが、これはあらゆる情報データを収集しまとめることで、この先に起こることさえも高確率で予想できるのではないかとされる意味を含みます。
「春の鴨」にはこういった意味に通ずるところがあるような気がします。
ジャイアント社が当時の台湾には無かった「統一規格」を作ったことも、最初は大手メーカーのOEMとして企業力を伸ばすことに注力したことも、未開発だった中国自転車市場に乗り出し、世界市場を見据えたのもすべて劉金標の「春の鴨」という先見の明が功を奏したからです。
2016年以降、日本企業の堕落ぶりが非常に目立つようになり、相対的に台湾企業の崇高ぶりが話題となっています。
日本企業はかつての技術大国という看板にしがみつき、将来を見据えた開拓が甘かったツケの支払いに追われる日々が続いています。
どんなに大企業であっても、判断を間違えれば破産する時代です。
大企業は進む道を誤らなければ得る利益も大きいが、切る舵が大きいだけに、立てる波も大きいし、間違ったと判断しても簡単に軌道修正ができないというデメリットがある。
一方、中小零細企業は企業力が乏しいという弱みがあるが、小回りが利く、軌道修正ができる、やり直しができるというメリットがあるとも考えることができます。
なので、「春の鴨」というセンサーを働かせ、新たな活路を見出してはチャレンジする行動力と勇気をもてば、ジャイアント社のような大企業にまで登りつめる日がくるのかもしれません。
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