有名なドイツの作曲家であるベートーヴェンの言葉として
「苦悩に負けず、突き抜けることができれば、そこには歓喜が待っている」
という言葉がある。
この言葉が心の中へと染みるように感じることができる内はまだまだ軽症だろう。
どうすれば、抱える苦悩を突き抜けることができるのか、長く暗いトンネルの中を彷徨い続ける町工場の二代目社長(次期社長)は沢山いる。
今、日本のものづくりを担う町工場の現場が高齢化を迎え、若い次世代の経営者達は厳しい国際社会で生き残る術を見出すために必死になっています。
実は、日本だけでなく台湾にも次期社長と呼ばれ新たな道を模索している若い世代がいる。
親族経営が代々続く会社では、個々の能力云々よりも社長の子供が次期社長と決まってしまっている場合が多い。
中小・零細ではひと際その確率が高い。
社長である親父の背中を見て育った子供は、必然的に親と比較される運命にあります。
現に私も二代目次期社長として同じ境遇にあるが、良きも悪きも比較されることで、親父と同等、あるいはそれ以上の業績を残したいと躍起になるのも二代目次期社長の特徴と言ってよい。
そんな彼らが現状打破をし新たな境地を見出すためには、ファーストステップとして「今、苦悩を抱えている理由は何か?」ということを洗いざらいリストアップしなければならないだろう。
先代を超える経営者となるぞ!という漠然とした目標はあっても、実際に具体的にどのような行動をするべきかが見えないまま、現状の業務の引継ぎに終わってしまうケースも多い。
先代から現状維持を強いられることもあるかもしれない。
そんな葛藤も含めて人は難局に立たされた時にこそ、新たなステップアップを踏むことができるとは言うが現実はそう簡単なものではないことは身をもって実感しているところです。
私が今後も台湾企業と継続的に交流していく上で、台湾の若い次期経営者の将来を危惧するか否かはビジネスの死活問題にもなる。
ここでは、ものづくりの世界で部品加工を生業とする台湾工場の次期社長にエールを贈るとしよう。
権力の掌握を目指すことなかれ
台湾でも日本と同じく中小・零細企業が圧倒的多数を占めます。
従業員の数は10人以下のところから、数10人、100人以上と様々。
この中でも100人以上の従業員を抱える会社の場合「権力の掌握」という問題が生じやすい。
親族経営が続いている会社の場合、現社長の子息に兄弟が複数いれば、誰が次期社長として就任するのかでもめることもあるようです。
長兄が社長、次兄が副社長というように形式上の役職に就いても、中身は対等であるということも少なくない。
赤の他人同士ならば、役職や肩書によって明確な上司・部下の関係が成立するのだが、兄弟ではそうならない。
なので、最初は親から引き継いだ会社を兄弟で共同経営していても、やがて方向性の違いにより衝突したりする。
最悪の場合は会社が分離することもあります。
会社が分離し、兄弟間でライバル同士になればもともと掲げていた当初の目的を見失うことにもなりかねません。
権力の掌握に溺れることの無きよう、時には一歩下がることも「最善の一手」となるかもしれないと思うべきです。
ここで言う「一歩下がる」というのは、意見の譲歩という意味であり、会社を他人任せでないがしろにしても良いという意味ではないので注意してほしい。
他人の意見を尊重しつつも、慎重にディスカッションできる器の役員を目指して欲しいと思います。
親世代に従属する従業員を振り向かせる方法
権力の掌握に通じるところとして、事業を親から世代交代で引き継ぐ時に従業員をどのようにして振り向かせるかが問題となることは頻繁に取りざたされる。
親(先代)が健在しているうちは、従業員もみな従順に指示に従ってくれていたのだが、世代交代と同時に指示への反発があったり、怠慢な行動になったりする従業員も出てくることがある。
「親の七光り」だけで代表取締役になる子息のことを良く思っていないのだ。
親が偉大であればあるほど、この「七光り」という言われも根拠もないレッテルを貼られることがある。
親と一緒に仕事をしている以上、避けられないのかもしれません。
実際、さまざまな歴史を見ても親が一代で大きな業績を築いた後、その子息(2代目)が事業の引き継ぎをしても際立った名声を残すことなく終えるケースの方が圧倒的に多い。
逆に、3代目になると2代目を反面教師として再び業績を残すパターンは珍しくない。
2代目が陥りやすい欠点は、狭い範囲の暗黙知で頭の中が塗り固められてしまっていることが多いことです。
暗黙知というのは、経験や勘に基づく知識のことで、個人が「言葉にされていない状態」でもっているものと考えるとよい。
洞察力、観察力、考察力などもひっくるめて暗黙知とする。
親が用意してくれた土俵(フィールド)の上だけで、忙しく働き実績を残そうとすればするほど、想定外のアクシデントにたちまち太刀打ちできなくなってしまうだろう。
従業員が懸念するところは、意外とそういうコアな部分だったりする。
自分では気づかないところも、社外の人間から指摘されたり意見をもらったりしながら補っていく気持ちを持つことが大事です。
そうすれば、時間をかけて従業員をまとめることのできる代表になれるだろう。
温室で育った花よりも、野風にさらされる雑草のごとく生きようと思いたいですね。
反骨精神による背伸びのし過ぎに注意する
先代がやってこなかった新しい取り組みをしたい。
会社の組織改革をしたい。
次期社長として、そんな気持ちが沸々と胸の中を満たす時期がある。
こういう時期に限って、ついつい背伸びをしてしまうものなのです。
やる気がみなぎるあまり、少々無謀なことにも挑戦したくなるんです。
あるいは、事業として現行の内容とは全くの異業種に手を出したくもなる。
ただ、どういう形の背伸びにせよ、ある程度の自己セーブは重要だ。
イケイケで突き進んで壁にぶつかって終わってしまうことを繰り返しては意味がない。
何らかの収穫を得る事を目的に計画的行動をしたいところです。
台湾企業によくあるのだが、難しい依頼を相談しても「やる!」「やってみる!」という返事をくれることが多い。
日本なら「やってみないと分からない」という言葉がよく出る。
この違いが時に大きなトラブルを招くこともある。
やってみたが、やっぱり難しかった・・・
これで客が納得してくれればよいが、そんな柔な話はない。
結局、トラブルの事後処理に奔走させられるのです。
こんな状況を生みやすいのも、次期社長の反骨精神によるところはあるだろう。
やる気やチャレンジ精神はあるものの、結果が伴わない理由は果たしてどこにあるのか?
指示が従業員に行き届いていないのではないか?
自分の思う理由を考えてみてほしい。
細かい点までリストアップすることが必要です。
些細なことから大きなことまで、より具体的な課題を見つけ出すのです。
中規模の会社であればこそ、人の数も増えるため改善点は多くなるはず。
一つ一つの課題をクリアすべく行動あるのみです。
ただし、注意してほしいのは、大幅な改革は一気に断行してはいけません。
人心の離散を招く。
人は慣れ親しんだ環境がガラリと変わると困惑するものです。
困惑すれば反発を招く。
少しずつ、少しずつ焦る気持ちを抑えながら変えよう。
次期社長として会社を確実に取仕切るためにすべきこと
まず、2代目として会社が組織として現状どのような形式で人が動いているのかを理解してほしい。
成長した会社ほどトップダウン形式をとるところが多いだろう。
要するに、上層部の役員が会社経営の方針を決め、その通りに従業員を動かす方式です。
あらゆる決定権はトップに君臨する幹部に委ねられています。
この方式で動く会社で有能とされる人物はMBA(経営学修士)ホルダーであり、2代目も潜在的にMBAのようであろうと動いてしまいがち。
MBAは結局のところ、ビジネススクールで教えてもらうような型にはまったロジックを軸に物事を考える癖をつけてしまいます。
いわゆる画一的思考ですね。
ビジネススクールに通わなくても、ビジネス書を読み漁ったりすることでも同じ現象が起こる。
MBAで苦労するのは、創造的発想が生まれにくいということ。
会社を改革するためには、欠かせない創造性という要素がかき消されないようにしないといけません。
そのためには、多くの社員の意見を聞き、自分のものにできるようにしたい。
そう思うと改革・発展をめざす2代目は、トップダウン形式よりもミドルアップダウン形式の方が合っているのではないかと思うのです。
ミドルアップダウン形式の場合、上層部で掲げた経営コンセプトを中層部や現場の実務部で実行するというのではなく、経営のマネジメントそのものを幹部も従業員も階層を飛び越えて一緒に考えるという方法です。
責任の所在を分散させるのではなく、一丸となるということに大きな意味がある。
それぞれの階層における代表者どうしでディスカッションする場を設けるのも良いだろう。
社員との交流は英知を磨く1つの手段です。
それが、次期社長として準備に欠かせないことではないでしょうか。
それぞれの会社によって、活動の範囲はバラバラです。
国際的な取引をしている会社もあれば、国内の取引だけしかしていない会社もある。
ある程度決まった内容の仕事しかしない手堅い会社もあれば、全く異業種の仕事にでも挑戦する会社もある。
どれが良いかは分からないけれど、最終的には自分はどう生きたいのか。
どう仕事をしていきたいのか。
それが行動を決めるだろう。
漠然と親が敷いたレールの上を走るだけじゃ面白くないと思う若い世代の次期経営者に程よいアクセルとブレーキを持つことを願います。
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